丑年記念小説 サラリーマンの1日

 

カーテンの隙間から朝日が差し込む。

7:00にセットしたアラームが冷え切った部屋で響く。

 

モー朝か。


布団から出なければ行けないが、出社したくない気持ちが布団の上からのしかかる。寒さも相まって心と身体が動けないためとりあえずスマホをいじった。大した連絡はない。


ウッシ、そろそろ起き上がるか。決心して布団から起き上がりトイレに向かった。


用を済ませるといつものように牛乳を冷蔵庫から出してグラスに注いだ。それをギュウっと一気に飲み干す。


身支度を整え家を出る。駅までの道を歩く。普段は意識しない道端の雑草が目についた。特に何かを感じたわけではないが口の中で唾液が広がった。


「牛みたいだな。」思わぬ身体の反応に一人つぶやいた。


新年早々とは思えないほど通勤客がホームで電車を待っている。白地に黒のマーブル模様のコートを着た女性が目の前を横切った。


先頭から2両目。ここが降りたとき階段から近く、空いている車両。


隣駅に着くと一気に高校生が乗車してきた。ギュウギュウだな。いつもと違う少しの不運に萎えながら、日課となっている転職サイトをスマホで開いた。


「上場予定会社のご紹介」、「あなたの経歴に関心があります」


人材紹介会社からのメッセージ。普段の仕事では称賛されることなど当然ないので、自分が必要とされている気がしてウシシと笑みがこぼれた。


自分が電車に乗っていることを思い直し笑みを噛み殺した。カタログだけではわからない人間の仕事には質の違いがある。


転職サイトに掲載していることでは大したことはわからないはずだ。


「牛じゃないんだから。」


そう思ったときにはモー景色が変わっていた。俺は牛だったんだ。